僕帝国幻想

見知らぬ場所にいる人間には、どうして憧れてしまうのだろう

描き下ろしショートコント「スマホを落としただけなのに」

BGMのKing Knuがフェードアウトしながら、明転する。
舞台上、腰を曲げた老人がゆっくりと歩いている。
下手から、スマホを見ながら、イヤホンを付けた女性が歩いて現れる。
 
二人、舞台の中央で衝突。
老人が転び、女性がスマホを落とす。
老人、倒れながらスマホを拾う。
 
女「すみません、お怪我はないですか」
女「ああ、どこか、痛みますか?」
爺「すまんのう、大丈夫じゃ」
爺「お嬢さん、歩きスマホはいかんぞ」
女「ごめんなさい」
女「はずみでiPhoneを落としてしまって」
爺「ああ、これか、落としてもまだ使えるみたいだぞ」
(爺、女に手渡す)
女「ありがとうございます」
女「って、これガラケーじゃないですか」
女「私のiPhone、返してくださいよ」
爺「えっ、iPhone? お嬢さんが落としたのは、J-PHONEじゃぞ」
女「うわ、ほんとだ」
女「懐かしい。って、J-PHONEなんてもう使えないでしょ」
爺「かつ! 何を言う。最新機種じゃぞ」
女「私のiPhone、返してください!」
爺「SANYOのカメラつきじゃな」
爺「写メ―ルが送れるぞ」
女「写メールって、いつの時代ですか」
爺「アプリも使えるぞ」
女「そんな昔、アプリなんてありましたっけ」
爺「Javaアプリを知らんのか。月額315円じゃ」
 
女「おじいさん、いい加減にしてください!」
(女、耳に着けたEarPodを外す)
爺「おおっ、もしかして最近話題のケータイで音楽を聴けるやつか?」
女「写メールとか言う人が知っているんですか?」
爺「着うたフルじゃろ」
女「古っ!!」
爺「仲間由紀恵ウィズダウンローズじゃ」
女「恋のダウンロード!!」
女「それって、私の子どものころのCMですよ」
爺「フォッフォッフォッ!」
女「なに笑ってんですかっ!」
爺「着うたフルだけに、古って」
爺「フォッフォッフォッフォッ!!」
女「うわあ、恥ずかしい」
爺「フォッフォッーフォッフォッー」
爺「フォーマ! フォーマ!」
爺「FOMA! FOMA!」
女「ドコモの3G!」
女「って、もう5Gの時代なのに」
爺「すまん、すまん。ドコモのユーザーじゃったか」
(爺、女にケータイを手渡す)
女「D503i!」
爺「フォッフォツ、それが一目でわかるとは、お嬢さんという歳ではないようじゃな」
(爺、懐から女のiPhoneを取り出す。女、足を鳴らす。)
女「怒りました! 返してください!」
爺「いやじゃあ、いやじゃあ」
(女が奪い取ると同時に、爺が倒れこむ)
爺「うぅっ、ううっー」
女「ああ、ごめんなさい、頭ぶつけてないですか」
爺「うぅっ……うう……」
女「救急車、呼びますか!」
爺「うう……うー……」
爺「うー……ウー……バー」
(女、正面を向いて、スマホをみる)
女「Uber呼んでるし!」
 
 
(暗転、おわり)