僕帝国幻想

見知らぬ場所にいる人間には、どうして憧れてしまうのだろう

秋の現代美術館めぐりpart1

岡山を拠点にして、美術館巡りの旅行へ出かけた。

豪雨災害のあと、ふっこう周遊割という支援があって、岡山・広島を中心に、旅行費用を一部負担する制度ができたので、これを利用した。北、南、西へ、3か所の現代美術館を訪れた。

 

1.奈義町現代美術館f:id:kimosabi:20181001210757j:plain

奈義町/現代美術館トップ

 

旅の目的のほとんどがこの美術館に行くことだった。とんでもなく山奥の田舎にあるが、実際に行ってみて、一度は行くべきとオススメできる、素晴らしい美術館だった。

建築と一体化した3つの作品が展示されている。展示を観るというよりは、建築空間の体感である。象徴的な、バカみたいにでかい横倒しになった太鼓のような巨大建造物は、荒川修作+マドリン・ギンズの≪遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体≫である。美術館を通り、地下のらせん階段を上ると、その中へと入ることができる。

奈義町/「太陽」の部屋 ≪遍在の場・奈義の龍安寺・建築する身体≫

僕が入った時には、ただ一人だけで、この空間に佇むということを堪能できた。

ほかの2つの展示についても、そこにいるということを占めることができた(田舎すぎて、客がほかにいないのだ)。美術品を独り占めるというのは、なんとも贅沢なことである。成金が美術品に手を出すのはこういうことなのだろうか。

美術館には、町の図書館が併設されている。最上階に広い天窓が開いた、本の傷みやすそうな建築である。そこから太鼓を見渡せる、小窓のついた、とても眺めの良い一席があった。素晴らしいのだが、その席を囲う書棚はマンガ棚で、名探偵コナンとかが並んでいる。そういう図書館だから、蔵書の保管とかは関係ないのかもしれない。コナンを読む子供たちは、大人になったときに、この場所の特別さに気づくときがくるのだろうか。

さて、この美術館は岡山県奈義町という、山陽と山陰のあいだの山奥にある。岡山からは、最寄り駅の津山までJRで二時間弱。そこから一時間に一本の路線バスで、一時間弱。もし、車で行ったとしても、主要都市からはアクセスしにくい、ドがつくド田舎である。

付近にコンビニなんてあるわけなく、美術館以外には何にもない。一時間に一本しかない帰りのバスを呆然と待っていたが、せめてバス停にはベンチを置けと思った。

帰りに津山駅の辺りで、なにかうまいものを食べようと思ったが、田舎なので駅前にファミレスが一軒あるだけだった。

駅にホルモンうどんのポスターが貼ってあったが、そんなものはどこにもなかった。

岡山駅に着いて、デミソースカツ丼を食べた。美味であった。

 

2.丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

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MIMOCA 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館

 

丸亀駅前にある、猪熊弦一郎を記念した現代美術館。猪熊自身が監修した美術館で、人々が気軽に寄れるように、駅前に建てられたとのことだ。

このときの常設展は「美術館は心の病院」と題されていて、建物だけでなく、コンセプトも開かれた美術館であるということがよくわかる。天気が悪かったが、遠足の幼児たちが観に来ていて、学芸員の話をよく聞いていた。子供たちのためにも作られていて、本当に町のためにある美術館という印象で、素晴らしい環境に思える。

 

客も少なかったので、雨がやむのを待って、ゆっくりと絵画などを鑑賞してから外に出た。香川県に来たのは、生まれて初めてだったので、どうしてもさぬきうどんを食べたいと思った。いわゆる、本当のさぬきうどんを食べたことがなかったからだ。

丸亀といえば、丸亀製麺である。しかし、駅の周囲には丸亀製麺が見当たらぬ。駅前のアーケードを通るが、食堂、ラーメン屋ときて、あとは民家が並ぶのみである。外壁だけペンキを塗り建てた公衆便所がアーケードの終わりにあり、かつて食堂だったぼろい建物の、そのドアの部分にサントリーの自販機がはめ込まれていた。

そこから折れて、丸亀城方面へと向かう、別のアーケードへと入っていったが、ほぼ廃墟であって、うどん屋など一軒もない。その先には、ドンキホーテとパチンコ屋の巨大なコンプレックスがあった。雨もやんだから、高台にある丸亀城のふもとまで行ってみたが、うどん屋どころか食べ物屋の一軒もない。

道中には、路上駐車を禁ずる、「とり奉行ほねつきじゅうじゅう」の絵が描かれた看板があったが、そのような鶏肉屋も見かけることはなかった。「とり奉行ほねつきじゅうじゅう」は、うちわを仰ぎながら、亀を散歩させていた。この町は終わっているなと、素直に思った。

結局、道を引き返し、アーケードの中ころにあった、居抜きで何も飾らない、入り口の狭い窓にシールでラーメンと書いてある、中の様子はうかがい知れない、一応のぼりはあるから開いているだろうという店と、駅中にあるカレー屋しかほかにはなかった。カフェーはいくつかあったが、食べたいのはさぬきうどんであったので、あきらめることとした。美術館以外には、何一つ満足いかぬ町であった。

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岡山から丸亀へと向かう車中、乗り換えた駅で巨大なイオンがあったことを思い出した。丸亀からアンパンマン特急に乗るのはやめて、快速列車で途中の坂出で下車することとした。

坂出駅前には、ファミレスが一軒あるだけだった。やはり、うどん屋はなかった。しかし、この駅には巨大なイオンがある。屋内駐車場だけで車は千台も止められそうなほどだ。駅の反対側には謎の金色の輪っかのような、15メートルは超えるだろうオブジェがあった。

おなかもすいたので、イオンへと歩いて行った。駅前にはほかに建物がないために、存在の際立つ廃旅館があった。イオンの隣には、口が開いて、内壁がすべて見通せる上に、平行四辺形に傾いている廃墟のプレハブがあった。イオンの中は、子供たちで賑わっていた。一階には、自転車屋とゲーセンとフードコートがあった。ほかに一軒のレストランがあった。しかし、うどん屋はなかった。

フードコートもよく見ると、ただの机とパイプ椅子がならんだ休憩スペースで、フードコート風に営業している、一軒の粉もの屋があるだけだった。うどん屋ではなかった。場所だけが余っていて、ゲーセンからつながっている無駄に広い駄菓子屋空間があり、その一角には卓球台が置かれていた。1人30分で200円であった。ここはイオンではなく、ジャスコであった。

ジャスコから出て、駅の反対側の金色のオブジェがある側へと行った。ファミレス以外にもあるかと期待したが、お菓子屋が一軒あるのみであった。駅の周囲には、巨大なジャスコと、まばらに立つ数軒のタワーマンションと、金色のオブジェがあって、小雨がばらついてきた。金色のオブジェには、銘板が備えられていた。銘板にはこのようにあった。

坂出市の未来を象徴するものとして記念碑を設置するものである。要した費用360億円。坂出市長某」

地方都市の地獄である。未来の地獄が具現化している。

結局、この旅のあいだ、うどんを食べることはかなわなかった。

 

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3.広島市現代美術館

時代遅れの最低な美術館である。

この日、バスの一日乗車券を買い、ひろしま美術館を観て、広島市現代美術館へと行った。ひろしま美術館は、大変良かった。だから、期待を持ってしまった。それは裏目に出てしまった。

特別展は「丸木位里・俊《原爆の図》をよむ」であって、これは大変素晴らしかった。全五部になる《原爆の図》の巨大な屏風図が、複製三部も合わさって、凄まじい迫力で展示されている。これは大満足であった。

僕が最低と思うのは、この美術館の在り方である。

広島市内ながら、バスが一時間に一本しかないし、山の頂上に建てられている。しかも、バスから降りたところから、さらに坂道を上らなければいけない。最悪のアクセスである。車で来ようとしても、山の上にあるから、駐車場もろくにない。美術館から山の中腹までは、路肩駐車場である。嫌がらせのような立地である。馬鹿だと思う。

常設展を見たのだが、入り口にここは写真撮影可とあって、ジャコメッティの彫刻を撮影したら注意されてしまった。細かいルールがいろいろとあるらしい。先に言ってほしい。気落ちするが、こちらの落ち度だから仕方ない。

このときのコレクション展は「キノコ雲のある世紀」で、表題作はマンハッタンにキノコ雲を写した写真作品である(蔡國強の作品)。これを表立って置くなら、じゃあ、Chim↑Pomのピカッはあるのか、といえば当然ない。だって、この美術館が結局中止したんだから。かわりにはならないが、奈良美智村上隆がある。岡本太郎横尾忠則がある。別に悪くないけど、このコレクションでは、この美術館に特別な意味って無いと思う。

帰りも、一時間に一本のバスを待つが、定刻より3分過ぎていたので、もしかしたら先に行ってしまったのかもしれない。ほかに客がいればわかるものだが、そもそも美術館に客がいないからわからない。常設展は自分一人しか見ていなかった。バス停に電光掲示板を置いたほうがよい。

戻るにしても、また坂道を上らないといけない。バス停には、ベンチがない。ベンチを置け。雨が降っているが、屋根のあるところもない。客のいないようなところだから、当然タクシーもいない。こんなところで一時間待つのは勘弁してほしい。

幸い、数分後にバスは来た。

二度と来たくないし、絶対に人にはオススメしない美術館であった。

 

Part 2 はそのうち書きます。